灰色の殴り書き

昔の言葉で言うならチラシの裏です

一億総メンタルヘルス時代に向けて

メンタルを崩し、休職して2ヶ月と少し経った。

 

自分の中では、なぜここまでの状態になったのか、何が決定的だったのか、ということも、概ね整理がついてきた。

 

幸い、たくさんの人に優しい言葉をかけてもらい、リハビリと称した雑談に付き合ってもらい、平日を自由に過ごすことで、体調の波に大小はかなりあれど、最悪期は脱したという実感がある。

 

そこで、 この機にメンタルヘルスというものに関連して、以前から思っていたことを書こうと思う。

 

みんな、しんどくないですか?という話だ。

 

いきなり何をと言われそうなので補足すると、精神的にちょっと疲れてませんか?という問いかけである。もっと詳しく言うと、この一年半近く、いわゆるコロナ禍というものに突入してからのことだ。

 

みんなが有形無形のダメージを受けている。もちろん、実際に感染された方、直接的に損害を被っている業界でお仕事をされている方、医療従事者をはじめ戦時のごとき緊急対応の継続で疲弊されている方は、その最たる例だ。そうした方々への金銭その他の補償、復帰支援というのは真っ先に議論されるべきだろう。

 

加えて、海外の例では感染症から回復した後でも精神的な後遺症が残り、意欲の減退や極度の疲労感などを理由に仕事を続けられない人の報道も目にした。正直に言って、大変な恐怖を感じる。ポストCOVID時代には、この問題も世界的な保健に関する課題として取り組むべきだと思うし、何かよい方法論・復帰メソッドのようなものが確立されることを心から願っている。

 

加えて、今回考えたいのは、もっと広範な、それこそ世界中の人々とかそういうレベルで、精神的な息苦しさが続いているよね、という話だ。

 

戦争中にも喩えられるような閉塞感。好きな人達と一緒に過ごせない、楽しみにしていたことがキャンセルされる、ストレス解消の手段が絶たれる。自分自身は勿論、家族に感染させることがないかという恐怖とも戦っている。そして、事態が良くなる先行きが見えない。そんな中でも、日々の仕事は続き、今まで以上にストレスを募らせる。けれど、その捌け口がどこにもない。活力を取り戻すことが許されない。そんな事態が、もうずっと続いている。

 

ダウンする前から考えていたことではあるが、今改めて強く思う。日本国民1億人、もっと言えば世界の人口77億人のうち、かなりの割合の人々が、静かにメンタルヘルス予備軍になってないか?と。

 

自分の場合は2年前から仕事で少しずつ精神が弱っていたところに、20年春からの感染拡大と外出自粛、第一子の誕生と育休、そこからの復帰、異動に伴う引き継ぎと新しい仕事のスタート、と立て続けに環境の変化があり、最終的にダウンした。その後に振り返ってみて、大学時代の知人との飲み会や泊まりの旅行などが、自分にとっては活力を取り戻すのにとても大きな役割を担っていたことを再認識した。それらは去年からほとんど一切失われた。

 

不要不急と四字熟語で切って捨てるのは簡単だ。だけど、その不要不急で活力を得ることで、何とかみんな日々を送っていたんだと思う。

 

友達に会いたい。ライブやイベントに行きたい。たまにはお酒を飲んで楽しみたい。けれど、今は仕方ないから、ぐっと我慢する。おそらく、多くの人がそうしてきただろう。けれど、それももうすぐ一年半だ。その間、明るいニュースがいくつあっただろう。期待した通りに物事が進んだことが、どれほどあっただろう?

 

ようやく、日本でもワクチン接種が始まった。概ね秋頃には大半の人が2回の接種を終える見込みだろうか。けれど、変異株の脅威についての報道も多く、まだ「○月からは安心して元に戻れる」と声高に語ることはできないのが現状だ。この秋や年末にかけて、事態の改善を見越して予定を立てていても、100%やれる!と確信を持っている人は少ないだろう。

 

そんな状況に、もう多くの人は無意識のうちに我慢の限界を迎えている。世間では既に、メンタルクリニックを受診する人がここ最近で急増したような話も出ているが、間違いなくその影には「医者にかかるほどじゃないけど、ずっと楽しいことがなくて気分が上がらない、なんだか疲れている」というような潜在的患者が何倍も隠れている。大きな症状が表面化しないだけで、日々ぎりぎりのバランスを保って生活を続けている。そういう人たちは、あと一つ何かきっかけがあるだけで、容易に決壊し、重度の症状に陥りかねない。

 

自分は会社の保健士に症状を説明したところ、即座に受診と休職を勧められた。実際にクリニックを受診すると、当日に即診断書発行、翌日から休職に入った。「薬を飲みながら様子を見つつ仕事を続けましょう」とかだと思ったら違った。相当ひどい状態だったらしい。

 

その時に頭によぎったのは、自分が客観的にこれほどひどい状態だと診断されるなら、あの人も、あの人も、今すぐ受診して休むべきじゃないか、ということだ。それくらい、周りのみんなが疲れている。追い詰められている。

 

だから、もしこれを読んでいる人の中に、「最近ストレスが溜まっており、ちょっとおかしい」という人がいたら、どうか面倒がらずに専門家に相談したり、クリニックを受診してほしい。これには自分自身の強い反省もある。去年の時点でも、何度か相互フォロワーに受診を勧められていたものの、その時は日が経てば気分が楽になったと言って結局何もせず、今回の事態を招いたという反省だ。

 

ちょっとおかしい、という段階で、専門家に話を聞いてもらい、適切な助言、あるいは治療を受けてほしい。おそらく、あなたが思うより、あなたは頑張っている。頑張りすぎて、追い詰められている。

 

おそらくこの先、社会では目に見える形で、メンタルヘルス患者の数が激増してくるだろう。明るい人、タフそうな人、など関係ない。皆さんの職場でも、今まででは考えられなかったような人が、上司・部下が突然限界を迎えて、お休みに入るかもしれない。もう、そういう時代が来ることは避けようがない。日本という国から、それを回避できるような力強いメッセージは出されなかった。安心して希望を持てるような行動は取られなかった。だから、これから先は一億総メンタルヘルス予備軍の時代だ。

 

ならばせめて、これからの行動を変えていくしかない。もうメンタル要因で休職したからと言って、偏見を持って接するようなふざけたことはいい加減に終わりにするべきだ。「あの人はメンタル弱いから」と噂したり、昇進に差し障るなど以ての外だ。もういっそ、「うつ病で休んでました」も、「インフルエンザで休んでました」くらいの扱いになればいい。(当然ながら療養・復帰支援に適切なプロセスを取るのは前提で、それとは別の話だ)

 

メンタルを崩さないようにケアしても、世界中が一年半にわたり状態異常でスリップダメージを受けてきた中では、限界がある。だから、回復したときに何の気兼ねもなく復帰できるように迎えてあげる体制を職場の意識レベルで整え、メンタル既往歴のある人もそうでない人も、何の支障もなく働けるような、そういう世の中に変えていくしかないのだ。

 

幸い、自分自身の休職に対して今のところ会社からはネガティブな扱いは受けておらず、「ゆっくり休んで戻ってきて」というスタンスで接してもらっている。ただし、本質的にはいわゆる体質が古い会社だと自分は見做しているため、今後どんな悪い展開が待ち受けているかは、率直に言って分からない。その点については、ある程度覚悟はしている。どうしてもダメそうなら人生初の転職をすることになるだろう。

 

だからせめて、自分自身は今までよりも身近な人をケアできるように、経験を活かして手を差し伸べられるように、仕事場でもプライベートでも生きていきたいと思う。

 

 

最後になるが、どうしても書きたかったことを追記する。どこか以前のように元気が出ないけれど、「コロナで辛いのはみんな一緒だし、私も我慢しないと」と思っている貴方へ。

 

貴方の辛さは、誰とも比べる必要がない。貴方だけのものだ。貴方だけが弱いから苦しんでいるわけじゃない。みんなが我慢しているとしても、それはみんな何かのきっかけで決壊しかねないほど、ギリギリのところにいるということだ。そして、貴方もそうなのだ。ずっと頑張ってこられて、今既にギリギリのところで踏みとどまっているのだ。

 

だから、「みんなと一緒に我慢する」必要なんてない。どうか、自分の心身の声を過小評価しないでほしい。風邪のひきはじめから大事をとって休むように、花粉症が始まる前から薬を飲み始めるように、大したことないかもしれないけど、と思いながらでいいので、専門家に頼る形でその不調と向き合ってあげてほしい。それが、休職という形にはなったけれど結果的にギリギリで助かった自分からの、精一杯のメッセージだ。