灰色の殴り書き

昔の言葉で言うならチラシの裏です

作品との運命的な出会い方を考える

小説、漫画、アニメ、映画、音楽……ジャンルを問わず、ある作品と「運命的に出会う」ということがある。

 

まるで自分のことのように、描かれている状況に親近感を覚えるとき。苦しい中に差し込んだ一筋の光のように、作品が提示するメッセージが輝いて見えるとき。登場人物の心境に、理屈を超えて共感し、涙を流すとき。何気ない一文、ワンシーンに、言いようもなく感動するとき。

 

人はそんなとき、その作品との出会いを、まるで運命であるかのように感じる。

 

そうした出会いは、必ずやその人にとって忘れがたいものとなり、強い印象を残し、素晴らしい思い出として心の財産になる。もちろん、数だけで語れるものでないのは承知の上であるが、そうした出会いを数多く経験した人は、きっと心豊かになれるだろう。また、言い方を変えれば、それだけ多くの作品がその人の中に残り、「心の支柱」になってくれるということでもある。

 

運命の出会いというものは、かくも素晴らしいものだ。そのような作品に出会うことは、様々なコンテンツを楽しむ人生にとって最上の喜びだと言っていいだろう。

 

さて、本題だ。ここでちょっと考えてみよう。

 

どうすれば、運命の作品と出会えるだろうか?

 

そんなもの、運命なんだから理屈で考えてどうするんだ。それじゃ運命でもなんでもないだろう。姑息なことを。

 

いやいや、ちょっとお待ちいただきたい。先程述べたように、ここでいう運命の作品とは、それに触れた本人にとって、まるで自分のことのように共感を呼び起こし、感動させてくれる、というものだ。(真逆のパターンで、全く共感困難・理解不能だけどなぜか最高、ということも有り得るだろうが、そちらについては今回対象外とする)

 

そのつもりで、一緒に考えてほしい。運命の作品との出会い方について。

 

まず思いつくのが、とにかく理屈抜きでたくさんの作品に触れる、ということだ。これについては、それができれば一番だし、特に丁寧な説明をするまでもないだろう。片っ端から興味を持った作品に触れる中で、自分にとってドンピシャなものを見つければよい。要するに、「量」をこなすやり方だ。分かりやすい。

 

他に方法はないだろうか。次に思いつくのは、古今東西を問わず、老若男女に幅広く響くものに触れる、ということだ。言い換えれば、より普遍的なものや、広く人気のある作品にアクセスしてみることだ。こちらは、量ではなく作品の「質」に注目する方法である。

 

分かりやすい例で言えば、古典が挙げられる。生憎自分は教養がからっきしの人間なので具体例に乏しいのだが、たとえば哲学。いわば人の心についての、古代からの叡智の集積である。そこには時代を超えた普遍的な教えがあり、あなたにも響く言葉が詰まっているだろう。

 

古典はハードルが高い、という人には、よりシンプルで簡単な方法として、大ヒット作に触れてみるというのもオススメだ。全ての例がそうだとは言わないが、広く共感されるからこそ、大衆の支持を獲得し、人気が出る。ラブソングであれば、より多くの人が共感しやすい歌詞とエモーショナルなメロディー展開がヒットのキモだろうし、漫画やアニメであれば、魅力的で共感を集めるキャラクターが多く登場することが大切だ。(ラブソングを全く聴かない身で僭越な語りではあるが……) マス人気のあるものには、やはりそれだけの理由があるのだ。きっと、そうした作品のコアにはより共感しやすいメカニズムがあり、たくさんの人にとっての「運命の作品」になっていることだろう。

 

と、ここまで「量」「質」という切り分けから、運命の作品との出会い方を書いてきたが、読者の皆様にとっては当たり前に思える話ばかりで退屈だったかもしれない。率直に言うと、書いている私自身もそうだ。ここまでは前振りで、今回本当に語りたかったことの前座に過ぎない。どれだけ文章下手なんだよとお叱りを受けそうであるが、次の三つ目が今回一番伝えたい内容だ。

 

運命の出会いを構成する要素は、作品だけではない。それに触れる「あなた」もまた、当然ながら運命の出会いには欠かせない登場人物だ。

 

だからこそ、最後の一つでは視点を変えることを提唱する。つまり、「あなた」のことからスタートして考えてみるのだ。

 

自分にとって、どういったストーリー展開が好ましいのか、どのような人物描写に共感できるのか。それは、形を問わず作品を愛する人であれば、常々意識していることだろう。よってここでは、さらに踏み込むことをオススメしたい。それは「今、あなたがどのような状態にあるか」だ。

 

自分の中の声に耳を澄ませてみてほしい。あなたは今、代わり映えのない日常に退屈しているのか、それとも新しい環境に胸を躍らせているのか。毎日気力が充実しているのか、それとも目まぐるしさに忙殺されて疲弊しているのか。精力的に動き続けているのか、それともちょっと立ち止まりたい気分なのか。周囲の人間と上手くいっているのか、それとも気持ちのしこりを感じているのか。そのようなことを、ちょっと振り返って考えてみてほしい。

 

そうして、自分の状態について、普段より自覚的になってみよう。言い換えれば、自分が何を必要としているか、どんな物語を求めているかを、自分の内面の状態ともリンクさせて考えてみよう。

 

そうしたら、あとはその自分の声に従って作品を探してみればいい。その際は、今までの自分の好みだけに囚われず、直感に素直になろう。半ば衝動買いのような形でもいいし、趣向の異なる作品を二つ、三つとピックアップするのも面白い。疲れている人は脱力するような日常系漫画を手にとってみてもいいし、行き場のないストレスを溜めているあなたは思い切ってバイオレンスな映画に飛び込んでみてもいいだろう。

 

大事なのは、今の自分の内面にとって必要そうなもの、「今の自分だからこそ」楽しめそうなものをチョイスすることだ。当然、あなたが今どんな状況に置かれているかによって、またそれをどう捉えているかによって、手に取る作品も変わってくるだろう。

 

そうして、自分の心の赴くままに作品を手に取ったら、最後にもう一工夫。本を読むときも、音楽を聴くときも、折角だからグッと前のめりでいってみよう。「さあ、お前が傑作なら私の心を動かしてみろ!」「今回は想像力をフル稼働して感情移入するぞ!」という具合にだ。そうすると、自ずと同じ内容でも受け取り方が変わってくるだろう。適当に消化するのではなく、いわば作品とのタイマン勝負だ。そうして上がった期待のハードルを作品が超えてくれたら、その嬉しさはひとしおだろう。

 

タイマンの末に見事あなたが勝てたら、つまり大いに楽しめたら、それはもちろん最高だ。運命の出会い、大成功だ。が、ダメだったからといって落ち込むことはない。Twitterにでも大声で「ハズレだったーー!」と書いてやろう。

 

いずれにしても、作品を味わった後は一言二言のメモ程度でもいいので、感想をアウトプットするのをオススメしたい。人間は、言葉にすることで気持ちを確認し、補強する生き物だ。特に書き言葉のパワーは絶大だ。印象的な一場面、ワンフレーズだけでもいいから書き留めておけば、綺麗さっぱり忘れてしまって勿体ない思いをすることもないだろう。加えて言えば、そこに「なぜ、今の自分にとって、これは面白かったのか/つまらなかったのか」というのを書き添えられれば最高だ。それは世界に唯一無二の、今その時のあなただけの感想になる。

 

もちろん、前述した「とにかくたくさんの作品に触れる」「普遍的な名作に触れる」という方法についても、「今の自分」を意識してから取り組むことで、より効果が上がることは間違いない。これら三つの方法は何も独立しているわけではないのだ。作品の量、質、そしてそれを受け取る自分の状態。その三つ全てを意識することで、運命の作品に出会える確率は、どんどんアップしていくだろう。

 

かくいう自分も、メンタルを崩して休職中という身ではあるが、この頃はそれに萎縮しすぎないように、逆に今だからこそできる楽しみ方というのを模索しはじめた。そんな中で、本日とある本を読んで「まさに今の自分にピッタリだ!」と思ったことをきっかけに、思いつくままに当記事を書き上げた次第である。

 

稚拙の極みのような内容ではあるが、読者の皆様がたくさんの作品と運命の出会いを果たせることを、心から願っている。そしてその暁には、是非ともその素晴らしさを自分にもご紹介いただけたら、望外の喜びである。