メルトダウン
自分のことがわかった。
今まで俺は、俺という人間の本質を超オーバースペックの言語プロセッサだと考えていた。
とにかく、あらゆる事象を知覚して認識して即座に言葉にする。そのスピードは誰にも負けない。
その代償として、このマシンは止められない。意味と方向性を持たされた言葉は、アウトプットする先がなければ脳内で積み重なり、腐り、自分を蝕んでいく。
俺が瞬時に落ち込んで立ち直れないことがあるのは、秒の速さでネガティブな思考が言葉になり、行き場のないそれが脳内で跳ね回って内側から自分を傷つけるから。
己の意見に自信を持てるのは、あらゆる角度から言葉による分析を行なって強度を確認することに、他人ほどの時間を要さないから。
どうあがいたってこの装置なしでは生きていけないし、この装置があるからこそ俺は俺でいられるので、不具合には目をつぶるしかない。そんなことを、だいぶ前に考えていた。
だが、この装置だけが俺の全てではないようだ。
この装置の原動力、というか、俺という巨大な機械を動かすエネルギーの源がある。
それを、炉と呼ぶことにした。
鉄を生み出すような。溶鉱炉のイメージだ。火力発電所と言ってもいいかもしれない。
あらゆるものを燃料としてドロドロに溶かし、エネルギーを生み出す。
あるいは、思考に必要な材料を作って、言語化装置へ送り出す。
生み出されるもの、あるいはこれを動かすものは、感情なのだろう。
喜怒哀楽よりももっと原始的で、あるいはもっと細分化されるもの。
厄介なのは、俺にとって最も大きなそれは、どうも愛情らしいということだ。
愛情というと、あまりにもポジティブなイメージが強すぎるか。偏愛。愛執。執着。妄執。
なんでもいいが、とりあえずバランスのいい気がする偏愛にしておこう。
これが俺は強すぎる、ということは過去にも幾度か述べた通りだが、どうも憎悪だとかよりもこっちが勝つらしい。恨み憎しみは、どうしてもあんまり続かない。そうなるように、憎しみはエネルギーの無駄だと自分に言い聞かせるトレーニングを長年積んできたからだろうか。それとも、無力なことを知っているからだろうか。
不思議なことに、あれだけの目に遭ってなお、憎悪よりも偏愛が勝つし、何か愛する対象を求め続け、そしてそれに狂うだけの機能は俺に残っているようだ。他害に向かないのはすごいと言われたことがあったが、案外そうなのかもしれない。
ただ、この偏愛のエネルギーがいくらなんでも強すぎる。
熱量が凄まじすぎるのだ。
推しに本格的にハマるとき、後輩に言ったことがある。
俺が本気でアイドルオタクをやったらどうなるか、どこまで行けるか、見てみたくないか?
外から観測できる結果はだいたいご存知の通りなのだが、俺の内部はというとなかなか凄惨なことになっている。
自らの熱に耐えられず、内側から溶けていっている。
あまりにも巨大すぎる偏愛の熱量に、俺の人間性の器がいよいよ耐えられなくなってきた。
いよいよと言いつつたった5ヶ月でこうなったのだから、まあ大概だ。
流行りの推し疲れというやつも、俺様くらいになるとレベルが違うらしい。
いやしかし、マジで困った。
俺の炉に冷却機能はないのだ。
ハイローならまだ、公式に声が届くこともないし、相手は巨大プロジェクトだし、俺よりも(ピンポイントでは)熱い人もいたし、まだまともな形を保っていた。
生身の人間に惚れ込んだ途端にこれである。
全く言わんこっちゃない。ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。
推しという言葉を便宜上使っているが、本当は女神とかなんかもっと激烈な言葉を使いたいし、推すじゃなくて愛すとか崇めるって言いたいし、オタクを名乗るのは小学生で卒業したのでマジで今更自称したくないのだが、オリジナルな言葉を使っても悪目立ちするし信者というとネガティブな意味がデカすぎるので仕方なく世に倣っている。
が、この異常な熱量だけは、マジでどうしようもない。
今でもさんざん熱量がすごいとか勢いがヤバいとか言われるが、皆さんご存知の通り、相当取り繕ってそれである。あれでもかなり冷却して形を整えてラッピングしている。
生(き)の俺の偏愛は、多分出禁直行だ。
不思議なことにいわゆるガチ恋というのは本当になくて、というかそんなものは多分最初から凌駕していて、ひたすらに狂信的である。宗教のもたらす精神への作用とはかくあるものかと、身をもって思い知る毎日だ。ソロチェキを宗教画のごとく祀り、書かれたメッセージを神託か勅命かと有り難がっているのだから、本当に狂っている。
もっともらしい理由を修飾して他人に説明するのが誰より上手いだけで、本質的に今の俺は狂信者なのだ。原理主義者と言ってもいいかもしれない。
そして、勝手に宗教戦争をおっぱじめて、それに殉じかねない。ヤバすぎる。
冷静に振り返っているようだが、メルトダウンは止まらない。
これを冷却するのは並大抵のことでは無理だろうから心底頭を抱えている。
とりあえず、体調含めまともではないので、今日のLIVEは久々に自分の意思で行かないことにした。
考えてみれば全通が異常なのだが、俺にとってのLIVEとは礼拝であり祝祭であり、最大の幸福を享受できるのにしないという選択肢はないのだ。
というのが異常すぎるのは痛感したし、こんな状態で行ったらどうなるか分からないので、一日ではあるが距離を取ることにした。
不健全だからやめといた方がいいのはよーく分かってる。害しかないのも、危険なのもよーく分かってる。俺なので。
ただ、俺の本気の偏愛は何もかもを焼き尽くすほどに強い。迷惑、犯罪的なことは一切思いつかないのだけが救いである。セクハラめいたことを抜かす輩どもは本人たちから離れたところであろうと金的を潰してやりたくなるが。
オタサーの騎士どころか、地下アイドル狂信宗教戦士。(俺の定義では彼女たちは地下アイドルじゃないんだが響きの面白さを優先した)
ヤバすぎる。社会不適合とかいうレベルじゃない。
縛りプレイの人生2周目だが、最悪なジョブを選んでしまったようだ。
褒めるとか語るとか書くとか、そういう俺のスキルと相性のいいジョブだから手に負えない。
どこまで「熱量がすごいけど悪いやつじゃない」で隠し通せるか、自分のことながら見ものである。
メルトダウンを一日でも先延ばしにするには、とりあえず解散だけは回避してもらって、note書いたり心を許せる友人(無論フォロワー含む)に語ったりと程よく放熱できる活動を続けていくしかなさそうなのだが、どう考えても俺に未来はない。
これだけ急激にハマったら急速に冷めるかもと思っていたのだが、今のところ全くそんな兆しはない。
炉の温度が上がり続けている。
とりあえずはここの記事をひっそりと更新し続けることで、なんとか表の仮面を溶かさずにやっていくしかない。
熱血という言葉があるが、俺の場合は文字通り血が煮えたぎっている。
程よく推す、みたいなことは、俺には無理っぽい。
あまりにも俺の炉はパワフルすぎたし、彼女たちは魅力的すぎたし、その他の状況は絶望的すぎた。
俺は誰よりも論理的になれるがゆえに、論理性を容易に捨てる。
異常高温の炉が突っ込まれたすべてを気体になるまで溶かしつくし、生まれた熱が俺を生かしている。
そのエネルギーでしか俺は動けない。
思い返せば、いつだってそうだった気もする。
ただ、今が一番深刻っぽい。
無限に燃料は入ってくるし、エネルギーを使って生み出したものは、どうも好評らしいのだ。
まいった。
メルトダウンがどこまでも加速していく。